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2021年3月8日月曜日

2021.3.3 子ども脱被ばく裁判一審判決(福島地裁2021.3.1)の評価

2021.3.3

子ども脱被ばく裁判一審判決(福島地裁2021.3.1)の評価


弁護団共同代表  井  戸  謙  一


1 原告の皆様、支援者の皆様、今回の判決は大変残念な結果に終わりました。言渡し終了後、多くの皆様が裁判所に怒りをぶつけられたのは当然のことでした。その後、判決全文を検討しましたので、私の評価を申し上げます。


2 この判決は、ICRP、IAEA,UNSCEARの見解を金科玉条の如く取り扱い、これにさえ従っていれば問題ないという考え方に貫かれています。これらの組織が、原子力の積極的な利用を目的とする組織であり、被ばく防護基準も原子力の利用を妨げない限りで設けているにすぎないことは全く顧慮されておらず、したがって、それが人権尊重を基本原理とする日本国憲法下の価値体系に適合するのかという問題意識はかけらもありません。緊急時被ばく状況の参考レベルを年20ミリシーベルト~100ミリシーベルト、現存被ばく状況の参考レベルを年1ミリシーベルト~20ミリシーベルトと定めたICRP2007年勧告は、日本の法律には取り入れられていないのに、まるで「法律」であるかのごとく取り扱われています。


3 学校環境衛生基準

 その中で、学校環境衛生基準に放射性物質についての定めが置かれていないことについて、「学校の保健安全の観点からすれば、これについても必要な考慮をすべきことは明らかである」と判示されていることは我々が獲得した成果であると思います。子どもを被ばくから守るためには、子どもの被ばく限度を学校環境衛生基準に定めることは国の義務のはずです。

 この点について、判決は、学校環境衛生基準に放射性物質についての定めがない状況では、具体的な措置は、教育委員会の合理的な裁量に委ねられていると述べ、今の環境下で教育をすることについて、教育委員会に裁量権の逸脱、濫用はないとし、20ミリシーベルトで学校を再開したことについても不合理とは言えないとしました。

 ここでは、原子力法制の価値判断と日本国憲法下の環境法制の価値判断が正面からぶつかります。環境法においては(学校環境衛生基準も同様)は、放射性物質のような閾値(しきいち)のない毒物の環境基準は、生涯その毒物に晒された場合における健康被害が10万人に1人となるように定められています。それが環境法の価値観なのです。これに対し、原子力法制下で一般公衆の被ばく限度とされている「年1ミリシーベルト」は、生涯(70年間)晒されるとICRPによっても10万人中350人ががん死するレベルです。年20ミリシーベルトであれば、なんと10万人中7000人ががん死します。この決定的な価値観の対立の中で、この判決が原子力法制の価値判断を優先させて採用する理由は、全く示されていません。私たちが最終準備書面において力を入れて書いた論点であるにも関わらずです。


4 セシウム含有不溶性放射性微粒子(CsMP)

 CsMPについて、判決は、「現状では科学的に未解明な部分が多く、現時点で従前から想定していた内部被ばくのリスクを超えるリスクの存在を否定できるものではない」と述べ、「今後も、その健康影響のリスクを十分に解明する必要がある」ことは認めました。しかし、「放射性微粒子が有意な割合で存在するのか、土壌に沈着した放射性微粒子が有意な割合で大気中に再浮遊するのか、科学的に解明されているとはいえない」としつつ、「有意に存在するのか、有意な割合で再浮遊するのか科学的に解明されてない。」とし(微粒子の割合や再浮遊することについて、原告側から提出した論文は無視されています。)、ICRPが、従前ホットパーティクル(プルトニウム粒子)の危険性を否定していたことから、「現段階において、ICRPの勧告に依拠した放射線防護措置を講じることが直ちに不合理ではない」と断じました。ICRP勧告は、セシウムが不溶性粒子として体内に入ることは想定していません。科学的にはっきりするまで対策を採らなくてもいいというのですから、それは、子どもたちを実験台にする考え方であり、許されません。


5 福島県県民健康調査

 判決は、福島県県民健康調査について、過剰診断論は採用していませんが、スクリーニング効果論が「現時点で直ちに不合理であるとはいえない。」とし、発生している小児甲状腺がんが被ばく由来であるとの考え方を退けました。報告対象外の手術例(経過観察中の子どもから発症した甲状腺がん)については、この存在が「県民健康調査の甲状腺検査の結果を評価する際に具体的にどのように影響するのかは別途検討を要する」けれども、「現時点において具体的な影響があると認めるに足りる的確な証拠はない。」としています。報告対象外の手術例が何例あるか分からないのに、スクリーニング効果論が不合理であるとはいえないとする判断は、不合理というしかありません。


6 安定ヨウ素剤の投与指標

 私たちが、平成14年に山下氏を委員長とする委員会が、安定ヨウ素剤の投与指標を小児甲状腺等価線量100ミリシーベルトに据え置いた点の不合理を主張したことに対して、判決は、「不合理とは言えない」としましたが、私たちが強く主張した点、すなわち、そのリスク・ベネフィット計算におけるリスク数値として、ポーランドにおける子どもの副作用数ではなく、大人の副作用数を採用した不合理性については、全く触れておらず、完全に無視されました。


7 山下発言について

 山下俊一氏の安全宣伝については、「誤解を招く」「問題があるとの指摘をうけてもやむを得ない」「より適切な説明の仕方があった」「不適切であるとの批判もありうる」などと評価しつつ、「県が訂正した」「イメージ的に分かりやすく説明するためのいわば例え」「多くの住民が福島県外に避難することを回避する意図があったと認めるに足る証拠はない」「積極的に誤解を与えようとする意図まではうかがわれず」等と述べて、結局、すべて免罪してしまいました。山下氏の苦しいうわべだけの弁解をそのまま採用した安易な判断です。


8 原告の皆さんが苦しい闘いを続け、多くの支援者の方々が懸命に支援してきていただいた結果がこれでは、到底納得できるものではありません。被ばく問題の原則は、「可能な限り被ばくは避けたほうがいい」です。ICRPですら、LNTモデルを採用し、いくら低線量であっても、その線量に応じた健康リスクがあることを認めています。一般公衆の被ばく限度年1ミリシーベルトすら、安全値ではなく、がまん値でしかありません。少しでも被ばくを避けようとする営みは、正しい営みとして積極的に評価されなければならず、これに対する妨害は許されません。

「被ばくを避ける権利」をこの国において認めさせるための闘いは、これからも続きます。

以上


 

2020年3月10日火曜日

2020.3.7 第26回口頭弁論期日報告


2020年3月7日
子ども脱被ばく裁判第26回口頭弁論期日のご報告
弁護団長 井 戸 謙 一

さる3月4日、山下俊一氏の証人尋問が行われ、この裁判の終盤の大きな山を越えました。弁護団としては、万全の準備をして臨んだつもりでしたが、振り返れば反省点が多々あります。しかし、獲得した成果も大きかったと考えています。
山下氏は、尋問前に提出書面で、自分が福島県民に対してしたのは「クライシスコミュニケーション」であり、住民のパニックを抑えるためには、わかりやすい説明が必要だったのだと正当化していました。しかし、いくら緊急時であっても、住民に嘘を言ったり、意図的に誤解を誘発することが正当化されるいわれはありません。私たちは、山下氏がした具体的な発言の問題点を暴露することに重点を置きました。
山下氏は、福島県内の講演では、ゆっくりと余裕を感じさせる話しぶりでしたが、法廷では、語尾が早口で消え入るように小さな声になり、緊張感が窺えました。尋問によって山下氏に認めさせることができた主な点は、次のとおりです。
(1) 100ミリシーベルト以下では健康リスクが「ない」のではなく、正しくは「証明されていない」であること
(2) 国際的に権威ある団体が100ミリシーベルト以下の被ばくによる健康影響を肯定しているのに、そのことを説明しなかったこと
(3) 「年100ミリシーベルト以下では健康被害はない」との発言は、単年だけの100ミリシーベルトを前提としており、連年100ミリシーベルトずつの被ばくをする場合は想定していなかったが、住民には、連年100ミリシーベルトずつの被ばくも健康被害がないとの誤解を与えたこと
(4) 「1ミリシーベルトの被ばくをすれば、遺伝子が1つ傷つく」と話したのは誤解を招く表現だったこと、すなわち、実効線量1ミリシーベルトの被ばくをすれば、遺伝子が1つの細胞の1か所で傷がつき、人の身体は37兆個の細胞でできているから、全身で遺伝子が37兆個所で傷つくことになるから、自分の発言は、37兆分の1の過小評価を招く表現だったこと
(5) 子どもを外で遊ばせたり、マスクをするなと言ったのは、リスクとベネフィットを考えた上のことだったこと(すなわち、子どもを外で遊ばせたり、マスクをしないことにはリスクがあったこと)
(6) 水道水にはセシウムが全く検出されないと述べたのは誤りだったこと
(7) 福島県民健康調査で福島事故後に生まれた子供に対しても甲状腺検査をすれば、多数見つかっている小児甲状腺がんと被ばくとの因果関係がわかること
(8) 鈴木眞一氏がいうように、福島県民健康調査で見つかり摘出手術をした小児甲状腺がんには、手術の必要がなかったケースは存在しないこと、
被ばく医療の専門家が住民に対してこれだけ多数の虚偽の説明をした目的は何だったのか、山下氏を利用した国や福島県の意図はどこにあったのか、今後、これらを解明していかなければなりません。弁護団は、これから最終準備書面の準備にかかります。裁判は、次回の7月28日午後1時30分からの弁論期日で結審します。年内か年明けには判決が言い渡される見通しです。最後までご支援をお願いします。
以上

2020.2.14 第25回口頭弁論期日報告


2020.2.14
第25回口頭弁論期日報告

弁護団長   井 戸 謙 一

2020年2月14日、第25回口頭弁論期日では、注目の鈴木眞一氏証人尋問が行われました。原告側60分、被告側60分の持ち時間制で行われ、限られた時間で有効な回答を引き出すことが求められました。
私たちは、次の4つの目標を立てました。①鈴木氏が甲状腺摘出術をした約180例のケースは、いずれも手術が必要だったケースであり、過剰診断、過剰治療ではないこと、したがって、今後、福島県民健康調査を縮小すべきではないという鈴木氏の意見をはっきりと述べてもらうこと、②福島県民健康調査で多数の甲状腺がん患者が見つかったのはスクリーニング効果であり、福島県で小児甲状腺がんが多発しているものではないという鈴木氏の主張が不合理であることを裁判所に認識させること、③経過観察に回した子供たちの予後を把握せず、福島の子ども達から発生した甲状腺がんの総数を明らかにしない点に、福島県民健康調査の闇があることを明らかにすること、④被ばくと甲状腺がんの因果関係を否定する鈴木氏の判断に合理性がないことを明らかにすること、以上です。
鈴木氏は、①について、自分が執刀したすべてのケースにおいて、手術が必要だったこと、福島県民健康調査は今の「サイズ」で継続すべきことを明言しました。②については、「福島で多発していないとすれば、摘出術が必要な子供が全国で1万2000人以上存在する計算になるがその子供たちを救わなくてよいのか」という質問に対し、回答を言い淀んでいました。鈴木氏が、本音では、手術を要する子供が全国にそんなにいるとは思っていない、逆に言えば、福島で多発していると思っていることを裁判所に感じ取っていただけたのではないかと思います。③では、鈴木氏がいわき市や会津若松市の病院でも甲状腺の摘出術をしていること、その症例は福島県民健康調査の件数に入っていないこと等が明らかになりました。福島県民健康調査検討委員会は、甲状腺がんの悪性若しくは悪性疑いの数を237人と報告していますが、それ以外に甲状腺がんにり患した子どもがどれだけの人数隠されているのか、闇がいよいよ深くなったと思います。④については、鈴木氏はそもそも複数の考え方が示されている問題について、そのうちの一つの考え方に固執しているにすぎないこと、そもそも悪性若しくは悪性疑いの総数が明らかにされていないのですから、被ばくとの因果関係について適切な判断ができるはずがないこと、それらのことを浮き彫りにして終わりました。
60分では時間が全く足らなかったというのが率直な感想です。しかし、制約がある中での一定の成果も獲得できたと思います。次回の山下俊一氏の尋問は90分間です。今回の経験を踏まえて、次回の戦略を立てたいと思います。
引き続き、ご支援いただきますよう、よろしくお願いいたします。

2019年7月17日水曜日

2019.7.9 第20回口頭弁論期日報告

2019.7.10

2019.7.9 子ども脱被ばく裁判第20回口頭弁論期日報告

弁護団長 井 戸 謙 一

1 原告側は準備書面73を提出しました。この準備書面は、被告国の準備書面12(低線量被爆の健康被害について述べたもの)及び準備書面13(内部被ばくについて述べたもの)に対する反論を内容とするものです。
2 被告国は次の2通の準備書面を提出しました。
(1) 準備書面14
  福島第一原発周辺の土壌には福島原発事故由来のプルトニウムが存在するが、その量がわずかであるので、健康上のリスクはないというもの
(2) 準備書面15
  子どもの放射線感受性が大人よりも高い前提で放射線防護対策がとられているが、低線量被ばくにおいては、高いという科学的根拠はないことを述べたもの
3 被告郡山市、田村市、福島市、会津若松市は、低線量被ばく及び内部被ばくについては被告国の主張を援用する(国の主張するとおりなので独自の主張はしない)との内容の準備書面を提出しました。
4 原告側は、7人の証人尋問申請書を提出しました。その採否について、最終的な決定は留保されましたが、郷地秀夫氏、河野益近氏、山下俊一氏については証人尋問を実施する方向であることが確認されました。
5 いよいよ次回からは、証人尋問が始まります。引き続きご支援をお願いいたします。
次回期日は10月1日(火曜日)午前10時10分に開始され、午前、午後実施されます。
以上

2019年6月4日火曜日

2019.5.15 第19回口頭弁論期日報告

第19回子ども脱被ばく裁判 口頭弁論期日報告
弁護団長 井 戸 謙 一

1 原告側は次の2通の準備書面を提出しました。
(1) 準備書面71
 内部被ばくに関する主張、セシウム含有不溶性放射性微粒子に関する主張が、国賠訴
訟における原告の主張のどこに位置付けられるかを述べた書面
(2) 準備書面72
 飯館村でプルトニウム239だけでなく、それ以上に毒性が強いプルトニウム240が発見されたことから、飯館村だけでなく、広域にプルトニウムが拡散していると考えられることを指摘した書面

2 被告国は、次の2通の準備書面を提出しました。
(1) 準備書面12
 低線量被ばくについて原告の主張に対する反論。LNTモデルは、科学的に実証されていないこと、低線量被ばくの健康リスクについてのスイスやイギリスでの疫学調査結果は、信用できないこと等を述べた書面
(2) 準備書面13
 内部被ばく、セシウム含有不溶性放射性微粒子の健康リスクについての原告の主張に対する反論。同じ線量であれば、健康リスクは外部被ばくも内部被ばくも同じであること、福島原発事故による住民の内部被ばくは心配する必要がないこと、放射性セシウムは土壌に吸着しているから土壌の放射性セシウムの再浮遊及びその吸入を心配する必要は無いこと、セシウム含有不溶性放射性微粒子の内部被ばくによる健康被害について、さらなる研究は必要であるが、福島の土壌中の放射性セシウムの大部分がセシウム含有不溶性放射性微粒子の形態で存在するという根拠はなく、これによる健康被害を心配しなければならない状況にはないこと等を述べた書面

3 今後の予定
(1) 次回期日までに原告側は被告国の上記準備書面に対する全面的は反論を行うとともに、証人申請をします。
(2) 次回で主張の応酬は基本的に終了し、次回期日では、証人尋問の予定を決めます。
(3) 裁判所は、今年の10月から来年の3月まで5回の期日をとり、毎期日の午前午後を使って証人尋問を行うという方針を示しました。ハードなスケジュールですが、裁判所の証人尋問に対する積極的な姿勢を評価したいと思います。
(4) 今回は、全国から署名をお寄せいただき、約6800筆を裁判所に提出することができました。心から感謝申し上げます。そして、子ども脱被ばく裁判も、いよいよクライマックスを迎えます。引き続き、そして今まで以上にご注目していただき、ご支援をお寄せいただくよう、お願い申し上げます。

次回期日は7月9日午後2時30分です。                   
以上 

2018年12月13日木曜日

2018.12.11 第17回口頭弁論期日報告


17回口頭弁論期日報告 (2018/12/11

1 201812111430分から、子ども脱被ばく裁判第17回口頭弁論が開かれました。原告側から準備書面(62)、(63)、(64)が提出されました。原告準備書面(62)は、既に提出されている国の第10準備書面に対する反論です。国は同準備書面において、「原告らの主張する『年1mSvの被ばくであっても、無用な被ばくによる健康被害を心配しないで生活する権利』なるものは、国賠法の救済が得られる具体的な権利ないし法的利益とはいえない」、「一般的、抽象的な健康リスクに対する不安感のみをもって国賠法の救済が得られる権利ないし法的利益があると認めることができない」、損害と請求原因との因果関係が明らかでない、そして「消滅時効の援用」についていろいろと述べています。これに対して、原告準備書面(62)では、抽象的な危惧感や不安感を権利ないし法的利益として主張しているのではなく、被ばくを避けて、健康に生存・生活するという個人の基本的な権利(健康13条、25条)が住民の健康と福祉を守る責務を有している被告らの行為によって意図的に侵害されたことで現実的に発生している将来への健康不安という精神的侵害の賠償を求めているものであること、消滅時効については時効の起算点が,「被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時」であり最判も「被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう」としていることを明確に説明しています。
また、原告準備書面(63)では、河野益近氏による調査を紹介し、福島県内の土壌中の放射性セシウムが不溶性微粒子の形態で存在し、県内子ども原告らが今後も福島県内に住み続けた場合に、同微粒子の摂取による健康被害を受けるリスクがあることを立証しています。
そして、原告準備書面(64)では、SPEEDIシステムの運用について、関係道府県と文科省、システム運営を受託する(財)原子力安全技術センター関係者らが定期的に連絡会議を持っていたこと及びそこで議論されていた内容を説明し、あわせてSPEEDIシステムは、原子力災害応急対策の基幹システムとして法令上も位置付けられていたこと、また、端末を設置していた被告福島県は災対法によってその情報を住民の防護対策のために利用しなければならず、被告福島県のSPEEDI情報の取り扱い(メール廃棄を含む)は、法令上の義務違反にあたることを説明しています。
2 基礎自治体(福島市、会津若松市、田村市、郡山市、伊達市)から準備書面が提出されました。原告準備書面(61)で「各市町村内の総合病院の患者数の推移を調査し」その結果を明らかにすることを要望していますが、いずれも、その要望に応じる必要はないという内容です。
3 今回、国から第11準備書面が提出されました。原告準備書面(55)において、「放射線管理区域規制の趣旨について」「20mSv通知の趣旨について」「低線量被ばく、内部被ばくの危険性について」の3項目ついて、国に対して求釈明をしていますが、これに対し国が第11準備書面において回答して来ました。
4 また、今回の期日において山下俊一氏の講演内容がおさめられているDVDが、裁判官、原告の皆さん、原告代理人、支援者、被告代理人の前で再生されました。1時間を超える内容でしたが、後半の福島の住民の皆さんからの質問に対して「全く影響はありません。」という断言を連発していました。
5 山下俊一氏のDVDの再生、原告代理人の提出書面の要旨の説明に引き続き、原告であるお母さんからの意見陳述がありました。裁判官の皆さんにこのお母さんの気持ちが伝わっていると確信しました。
以上です。


2018.10.16 第16回口頭弁論期日報告


子ども脱被ばく裁判20181016日第16回口頭弁論期日報告

弁護団長 井 戸 謙 一

1 原告側は、準備書面5861の4通の準備書面を陳述し、調査嘱託の申立てをしました。
(1) 準備書面58 
内部被ばくの健康リスクを実効線量で評価してはいけないこと、特にセシウムの不溶性微粒子による内部被ばくは、危険性が大きいことを主張したもの
(2) 準備書面59
 被告福島県に対し、福島県県民健康調査甲状腺検査における「経過観察問題」、すなわち、経過観察となった後に甲状腺がんを発症した子どもの数を調査の上、明らかにすることを求めたもの
(3) 準備書面60
 山下俊一氏が福島原発事故直後に福島県内各所でした講演の内容が、科学的に荒唐無稽であることを主張したもの
(4) 準備書面61
 南相馬市立総合病院の「患者数の推移」として南相馬市が公表したデータによって、福島原発事故後、同病院の患者数が増加していることを指摘し、被告基礎自治体に対し、各区域内の総合病院の患者数の推移を証拠提出することを求めたもの(なお、南相馬市立総合病院の上記データについては、ネット等で、「患者数ではない」との意見が公表されていますので、今後、その数字の持つ正確な意味を明らかにしていく必要があります。)
(5) 調査嘱託申立て
  福島県立医大及び同大学鈴木眞一教授をリーダーとする研究チームに対し、経過観察とされた子どもの中から甲状腺がんを発症した子どもの数の報告を求めたものです。

2 被告国は、第10準備書面を提出しました。その内容は、①子どもが無用な被ばくをしたことによる精神的苦痛は、法的保護に値しない、②原告らの権利は、既に時効消滅している、というものです。

3 被告福島県は、第16準備書面、第17準備書面を提出しました。第16準備書面は、日本の法律による年1ミリシーベルト規制や放射線管理区域規制の趣旨等を述べたもの、第17準備書面は、被告福島県は、県民健康調査甲状腺検査の経過観察中の甲状腺がん発症数を把握しておらず、調査する義務もないと主張するものです。

4 裁判所は、上記1(5)の調査嘱託については、被告国の意見を聞いて採否を決定することになりました。また、原告側は、上記1(3)の準備書面60に関連して、山下氏の講演映像のDVDを証拠として提出しており、これを法廷で再生することを希望していましたが、これは、次回に行うこととなりました。
5 今回は、新たに3043筆の署名を裁判所に提出することができました。署名活動へのご協力、ありがとうございました。
6 次回口頭弁論期日は、12月11日午後2時30分、その次の期日は、来年2月20日午後2時30分です。引き続きのご支援と多数の傍聴をお願いいたします。
以上


2018年7月11日水曜日

2018.7.9第15回口頭弁論期日報告


15回口頭弁論 期日報告(2018/7/9)

1.   201879日、14:30から、子ども脱被ばく裁判第15回口頭弁論が開かれました。原告側からは準備書面(54)、(55)及び(56)を提出し、陳述しました。準備書面(54)は、被告国が連名意見書等を証拠として提出してLNTモデルは科学的に実証されていないなどと主張していることに対し、崎山意見書等を踏まえて詳細に反論するものです。準備書面(55)は、前回期日に被告国が行った口頭陳述を踏まえて被告国の主張に対しコメントし、低線量被ばくによる健康被害についての補充主張をするとともに、低線量被ばくの健康リスクについて議論を嚙みあわせるために、被告国と被告県に対し、詳細な釈明を求めています。準備書面(56)は、被告国と被告県の情報隠ぺい問題に関する反論に対する再反論をするとともに、被告国と被告県に対し資料の提出を求めるものです(各書面の詳細については弁護団ホームページにアップする書面をご参照ください)。
2.   被告側の学校を設置している基礎自治体(いわき市、伊達市、田村市、郡山市、福島市、会津若松市)から、原告が主張立証した不溶性放射性微粒子による内部被ばくの危険性の問題についての準備書面が提出されました。しかし、いずれも単に「不知」などとするものでした。井戸弁護団長は、学校を設置する基礎自治体としてそのような不誠実な態度で良いのかと問題提起し、より詳細な認否反論を求めました。
3.   被告福島県は、経過観察問題について、原告の釈明に答える予定はない、認否反論も不要であるとする書面を提出しました。柳原弁護士から、あらためて被告福島県に対して、小児甲状腺がんの症例数を把握し公表する義務があると考えているのかどうか問いただしましたが、明確な回答は得られませんでした。
4.   被告国は、求釈明申立書を提出し、原告の国家賠償請求は、「福島第一原子力発電所事故による、原子力損害の賠償に関する法律」に定める「特定損害」なのか否か、という釈明を行いました。この法律は、福島第一原発事故により東京電力に賠償を求める場合の時効期間を延長した法律です。本件で原告らが主張している、情報の隠蔽、子どもたちにヨウ素剤を服用させなかったこと、集団避難をさせなかったこと等は、いずれも国と県の不作為を問題にするもので、「特定損害」とはいえませんので、弁護団はそのように回答しました。国はこれを踏まえて次回以降、消滅時効の主張を行うものと予想されます。自ら責任を放棄して不作為をはたらいておきながらそのような主張が許されるものでしょうか。
5.   原告代理人の準備書面の説明に続いて、若い母親の原告が、意見陳述を行いました。「井戸弁護士の『怖がっていい、泣いていい、怒っていい』ということばを目にすると涙が出てくる、7年経った今もそうできる状況ではないから」「経済よりも何よりも、一人一人の命、健康を大事にしてほしい」涙ながらの訴えが裁判官の心に響いていることを願ってやみません。
6.   次回期日は1016日、次々回は、1211日、その次の期日は2019220日(いずれも口頭弁論14:30開始)となります。今後の国側の反論とこれに対する原告の再反論で、原告被告間の主張のやりとりが一通り済んだかたちとなり、訴訟もいよいよ山場を迎えることとなると思われます。今後も多くの皆様のご支援をお願いいたします。
(文責 古川)

2018年4月28日土曜日

2018.4.25第14回口頭弁論期日報告


子ども脱被ばく裁判2018425日第14回口頭弁論期日報告

弁護団長 井 戸 謙 一

1 今年の4月1日付で裁判長が交替しました。新裁判長は、遠藤東路氏。丁寧で穏やかな方という印象でした。
2 本日は、裁判長が交替したため、当事者が今まで積み重ねてきた主張の概要を口頭で説明しました。「更新弁論」といいます。原告側は各弁護士が分担して約40分間、口頭説明をしました。被告国は、訟務検事が約20分間、国の主張を口頭説明しました。その他の被告(福島県、福島市、郡山市、田村市、いわき市、会津若松市、川俣町)は更新弁論を行いませんでした。
3 被告国の更新弁論は、福島原発事故後の国の施策は、法令に則った裁量の範囲内のもので問題はないとするものであり、そのうち、被ばくによる健康リスクについての部分は、「国際的な科学的な知見として、少なくとも100mSvを超えない限り、がん発症のリスクが高まるとの確立した知見は得られていない」「放射線に被ばくすれば、線量の多寡に関わらず、すべからく健康に悪影響が生じるとの考え方は現在の国際的なコンセサンスにそぐわない」「原告らの主張は、国際的な合意に基づく科学的な知見に反している」等というものでした。これは、ICRPですら提唱しているLNTモデルを否定するものであり、「国際的な合意に基づく科学的な知見に反している」という言葉は、そのまま被告国にお返ししたいと思います。
4 本日原告側は、元京都大学工学部原子核工学教室技官の河野益近氏、医師で東神戸診療所長の郷地秀夫氏の各意見書を提出しました。これらは、いずれも、福島原発事故で大量に放出されたセシウムを多く含む不溶性放射性微粒子の内部被ばくによる健康リスクについて述べるもので、セシウムがこのような形態で環境中に存在することは従来は想定されていなかったこと、ICRPによれば、セシウムの生物学的半減期は、子供で40日、大人で80日とされているが、不溶性放射性微粒子の半減期は数十年にわたると考えられており、ICRPが提唱する内部被ばくの評価方法は、不溶性放射性微粒子については適用できず、不溶性放射性微粒子による内部被ばくのリスクの程度はわかっていないこと、土壌汚染濃度が高い地域では、土壌に含まれている不溶性放射性微粒子が風等によって再浮遊し、呼吸によって人の体内に侵入する危険が高いこと、このような未知の危険に子どもたちを晒すべきではないこと等を述べるものです。これらの意見書は、弁護団のブログにアップしますので、是非多くの方にお読みいただきたいと思います。
5 本日、原告側は、次の準備書面を提出しました。
(1) 準備書面51 河野意見書、郷地意見書に基づいて不溶性放射性微粒子の内部被ばく、接触被ばくの危険性を述べるもの
(2) 準備書面52 被告福島県に対し、県民健康調査において経過観察とされた子供たちから発症した甲状腺がん患者の数を公表するように求めたもの
(3) 準備書面53 原告らの陳述書に基づき、被告国及び被告県の違法行為の結果、子どもが無用な被ばくをし、精神的な苦痛を被ったことを主張するもの
6 被告福島市ほかの市町は、不溶性放射性微粒子による健康リスクについて述べた原告準備書面45に対する認否をしましたが、いずれも「不知」、すなわち、「原告の主張は、認めないが、反論もしない。原告の主張が正しいかどうかは知らない、」というものでした。これに対し、原告側は、子ども達の健康に責任を負っている被告福島市ほかの市町が「不知」という認否をするのは無責任であって、認めないのであれば、その理由を詳細に主張すべきであると述べました。
7 今回も原告のお母さんが意見陳述しました。福島原発事故初期における行政の怠慢を厳しく指摘するもので、その内容は、見事に国の代理人の上記要約陳述の欺瞞性を厳しく追及するものとなりました。
8 今回は、新たに4231筆の署名を裁判所に提出できました。署名活動へのご協力、ありがとうございました。
9 次回口頭弁論期日は、7月9日午後2時30分、その次の期日は、10月16日午後2時30分、その次の期日は、12月11日午後2時30分です。引き続きのご支援と多数の傍聴をお願いいたします。
以上


2017年5月25日木曜日

2017.5.24第10回口頭弁論期日報告

2017.5.24 子ども脱被ばく裁判第10回口頭弁論期日の報告
原告ら弁護団長 井 戸 謙 一 

第1 主張、立証について
今回の期日で陳述された準備書面は次のとおりです。また、原告の陳述書8通を提出しました。
1 原告側
(1) 準備書面(28)
準備書面(26)の一部を訂正したもの(数値の誤り)
(2) 準備書面(29)
  ICRP2007年勧告の趣旨を正しく理解すれば、緊急時被ばく状況における参考レベル年20100ミリシーベルト、現存被ばく状況における参考レベル年120ミリシーベルトを根拠に年20ミリシーベルトを学校校庭での被ばく線量の暫定的な目安とした国の措置が違法であることを述べたもの
(3) 準備書面(30)
SPEEDIのデータの公表は国の義務であり、これを公表しなかったことを正当化しようとする国の主張が不当であることを述べたもの
(4) 準備書面(31)
福島県内では、今なお放射線管理区域の基準を超える地域が広範に広がっていること、福島では放射性降下物が今なお多量に検出されること、土壌汚染レベルが高いと、土壌中の放射性微粒子が再浮遊し、呼吸によりこれを取り込んで内部被ばくする危険があること、放射性微粒子の存在の一形態であるセシウムボールはわずか球径2ミクロンの大きさであるが、そこに数十億個のセシウム原子があるとされていること等を述べたもの
(5) 準備書面(32)
  安全配慮義務の主張を補充したもの、すなわち、福島原発事故後、放射性物質は環境基本法のもとで規制されることになったが、未だに、放射性物質についての「環境基準」も「規制基準」も定められていないこと、学校保健安全法に基づく「学校環境衛生基準」にも放射性物質についての定めがないこと、これらは、法令の欠缺であり、条理によって補うべきこと、「環境基準」と「学校環境衛生基準」は同等に定められるべきこと、放射性物質の規制基準は「年1ミリシーベルト」と定めるべきであり、環境基準は「年50マイクロシーベルト」と定めるべきこと、被告基礎自治体らには学校環境衛生基準を順守する義務があること等を述べたもの
(6) 準備書面(33)
  福島県民健康調査で公表されていた小児甲状腺がんの患者数は一部であり、一旦「経過観察」とされた後に発見された患者は、上記公表値に含まれていないことが判明したこと、福島県は、上記の隠された患者数を未だに公表していないことを指摘し、福島県に対し、その数を明らかにするよう求めたもの
(7) 準備書面(34)
  文科省の20ミリシーベルト通知につき、強制力がないとの国の主張に対する反論として、この通知が事実上の強制力を持つことを明らかにするとともに、その違法性について補充主張したもの
(8) 準備書面(35)
  一部の原告につき、主張の一部を撤回したもの

 2 被告側
(1) 被告国 第6準備書面
低線量被ばくの危険性に関し、①LNTモデルが科学的に立証されていないこと、②原告らが提出した長期低線量被ばくに関して各国で報告されている疫学調査結果の結果について、その結論が誤りであること、③福島県民健康調査の結果は、被ばくとは関係がないこと等を述べるもの
(2) 被告会津若松市第4準備書面、被告伊達市第6準備書面、被告川俣市準備書面(5)、被告福島市第4準備書面、被告いわき市準備書面(9)、被告田村市・郡山市第7準備書面
  これらの準備書面では、「安全配慮義務」違反を理由として損害賠償請求をすることはできても、損害が発生する前に「履行請求」(安全に対する配慮を求めること)をすることはできないと主張しています。

3 法廷でのやり取り
国は、原告側が求めていた原子力緊急事態宣言の具体的内容についての説明を拒否しました。引き続き求めていきます。

第2 原告の意見陳述
  今回は、福島市に住むお父さんの意見陳述書を、その方が出頭できなかったので、原告団代表の今野さんが代読しました。こどもを守りたいという気迫にあふれた文章でした。

第3 今後の予定、その他
 1 子ども人権裁判
   被告基礎自治体らは、原告準備書面(32)に対する反論をします。原告側は、安全配慮義務の履行請求ができることについて主張を補充します。
 2 親子裁判
   引き続き、原告側で原告の陳述書の追加提出と、因果関係(被告国や被告福島県の無作為によって、子どもたちがどのように無用な被ばくをさせられたか)についての追加主張をします。また、被告国の準備書面(6)に対する反論を行います。
 3 署名について
   全国からたくさんの署名をお送りいただいています。累計で4万5000筆を突破しました。ありがとうございました。引き続き、ご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。
以上


2017年2月18日土曜日

2017.2.15第9回口頭弁論期日報告

2017.2.17
2017年2月15日第9回口頭弁論期日の報告

弁護団長  井 戸 謙 一


第1 今回の期日で陳述された準備書面は次のとおりです。
 1 原告側
  (1) 準備書面(24)
 親子裁判における被告福島県の主張に対する反論を内容とするもの
  (2) 準備書面(25)
 親子裁判において、被告国が個々の子どもの被ばく線量を明らかにするよう求めてきたのに対し、その必要がないと拒絶したもの。被ばくは、どんなに少量であってもそれに応じた健康リスクがある(LNTモデル)のですから、原告側としては、子どもたちが被告国及び被告福島県の義務違反行為によって無用な被ばくをしたことを主張、立証すれば足り、個々の子ども毎に、実際に受けた線量、無用な被ばくによる線量を明らかにする必要はありません。また、現実問題として、原告側が正確な線量を主張することは不可能であり(それ自体、国や福島県が被災者の被ばく量測定をサボタージュしたことが原因です)、これを求めるのは不可能を強いるものです。
  (3) 準備書面(26)
 年1mSvの被ばくでも健康リスクがあることを述べたもの。土壌汚染の環境基準(ベンゼンであれば、それが含まれた地下水1リットルについて0.01ミリグラム)は、その地下水を生涯70年にわたって毎日2リットルを飲用した場合に健康被害が10万分の1となるレベルで設定されています。これに対し、年1mSvの被ばくを生涯70年間続けると、ICRPの考え方でも、10万人中350人が過剰にガン死することになります。環境基準に比べて年1mSv基準ははるかに甘く、年1mSv以下であっても、無用な被ばくをさせられたことに基づく精神的苦痛は法的保護に値することを主張したものです。
  (4) 準備書面(27)
 被告国と被告福島県の義務違反行為によって個々の子どもが無用な被ばくをさせられたことを具体的に述べたもの。同時に、原告らの陳述書9通を提出しました。

 2 被告側
  (1) 被告国 準備書面(5)
 情報隠蔽問題について、国の主張を述べたもの。スピーディ情報を公表していたらかえって被災者を混乱させていた等として、公表しなかったことを正当化しています。
(2) 被告福島市準備書面(3)、同会津若松市準備書面(3)、同郡山市・田村市準備書面(3)、同川俣町準備書面(4)
 いずれも、前回の原告側の求釈明に対する回答を内容とするものです。福島市における給食は、平成23年11月~平成24年4月までは500bq/kgを基準としていたこと、郡山市では、平成23年4月5~7日の測定で、文科省基準の3.8μSv/時を超えていた小中学校が4校あったが、その後、基準以下になったから他の小中学校と同様に始業したこと等が説明されています。

 3 法廷でのやり取り
 原告側は、被告国に対し、原子力緊急事態宣言の具体的内容についての説明を求めていますが、国は答えません。今回も求めたのに対し、国は必要がないとの態度でしたが、最終的には、検討することになりました。

第2 裁判所
 被告国が、東京電力に対する調査嘱託を申し立てていました(各原告に支払った損害賠償金額について)が、その採否を留保する旨を明らかにしました。

第3 原告の意見陳述
 今回は、原告の中手聖一さんが意見陳述をしました。行政に対する淡い期待が裏切られたことに対する怒り、子どもに対する大人の責任を果たす決意などが述べられ、聞く者の胸を打ちました。

第4 今後の予定、その他
 1 子ども人権裁判
 被告基礎自治体の回答に基づいて原告側の主張の補充をする予定です。
 2 親子裁判
 引き続き、原告側で原告の陳述書の追加提出と、因果関係(被告国や被告福島県の無作為によって、子どもたちがどのように無用な被ばくをさせられたか)についての追加主張をします。また、被告国の準備書面(5)に対する反論、低線量被ばくの危険性についての追加主張も行う予定です。
 3 署名について
 全国からたくさんの署名をお送りいただいています。累計で4万筆を突破しました。ありがとうございました。引き続き、ご協力をよろしくお願いいたします。
以上


2016年12月17日土曜日

2016.12.12第8回口頭弁論期日報告

2016.12.12
2016年12月12日第8回口頭弁論期日の報告

弁護団長  井 戸 謙 一

1 原告側は、準備書面(20)(22)を提出しました。その内容は、次のとおりです。
(1) 準備書面(20)【親子裁判関係】
9人の原告の陳述書の内容を踏まえ、国や福島県の不作為と子どもたちが無用な被ばくをしたことの因果関係を主張するもの
(2) 準備書面(21)【子ども人権裁判関係】
ア 被告自治体の主張に対する原告の次のような反論を記載したもの
() 「安全な環境で教育を受ける権利」の発生根拠は、被告自治体の子どもたちに対する安全配慮義務である。そして、子どもたちの安全配慮を求める権利は、憲法26条、教育基本法、学校教育法、学校保健安全法に由来する。
() 「現在の学校施設での教育を差し止める権利」の根拠は、子どもの健康を中核とする人格権である。
  イ 被告自治体らの主張は、原告が低線量被曝の危険性の根拠とする次のような事実(日本の法律が、一般公衆の被ばく限度を年1ミリシーベルトと定めていること、日本の法律が放射性セシウムによる表面濃度4万ベクレル/㎡を超える環境を放射線管理区域として厳しい規制をかけていること、累積5ミリシーベルトの被ばくで白血病の労災認定がなされた事例があること、原爆症の認定基準では、1ミリシーベルト以上の被ばくをしたと考えられる人で、一定の類型の疾病に罹患した人は、原爆症と認定されること等)に対して、これらの事実は、低線量被曝による健康被害とは関係がないと主張するのみで、それ以上の具体的な主張をしていないので、これに対する具体的な理由を述べるように求めました。その他、多くの求釈明(相手方に説明を求めること)をしました。
(3) 準備書面(22)【子ども人権裁判、親子裁判とも】
内部被ばくの危険性について述べ、それゆえに、被ばくによる危険性は、空間線量によって判断するのではなく、土壌汚染濃度をより重視するべきことを述べたもの

2 被告の主張
 (1) 被告国
ア 第4準備書面【親子裁判】
いわき市民訴訟の原告ともなっている原告について、二重起訴にあたる(同じ請求を複数の裁判でしている)として、却下を求めるもの
イ 調査嘱託の申立て
東京電力ホールディングス株式会社に対し、各原告に支払った損害賠償額について回答を求めるもの
 (2) 被告福島県の準備書面(9)【親子裁判】
   被告福島県については、スピーディ情報や線量情報を県民に提供するべき法的義務はない、安定ヨウ素剤の服用指示について、国の見解に従ったことにし違法はないとするもの
(3) 被告いわき市の準備書面(8)
いわき市は、線量が下がり、既に1ミリシーベルト/年を下回っているとすること等を主張するもの

3 原告の意見陳述
  今回も2名の原告が意見陳述をしました。
家族で長野県に避難しているお父さんは、経済的にも肉体的にもぎりぎりの生活だが、子どもを守るためにこの道を選んだことを述べ、言いたいことの10%も話せていないけれど、裁判官や被告側の代理人に対し、人の子の親として考えてほしいと訴えました。初めて信州の公園で遊ばせようとした子どもたちが、「お花触っていいの?」「マスク外していいの?」と聞いてくるのを見て、子どもたちに大変な我慢をさせてきたことに気づき、夫婦で涙を流したという話に胸が詰まりました。
県内に住んでいるお母さんは、体調不良で裁判所に出頭できず、他のお母さんが代読しました。情報が知らされなかったために子どもたちを被ばくさせてしまった無念、根拠のない安全宣伝のために、人と人が分断され、親子の間ですら溝ができてしまうことのつらさを訴えられ、しかし、子どもの健康を守るために親として闘うのだという凛とした決意がみなぎる陳述でした。

4 この裁判は、長期低線量被曝の健康に対する危険性の有無、程度が第一のテーマです。この点について、被告の国、福島県らは形式的な反論しかしてきていません。早期に実質的な反論をさせて、議論を深めていくことが今後の主たる課題になると思われます。
引き続き、ご支援をお願いいたします。

2016年10月27日木曜日

平成28年10月12日(第7回口頭弁論期日)での活動の様子

20161012 UPLAN【後半・弁護団報告、地裁前集会、記者会見、意見交換会】弁護団「これまでの進捗状況と本日の争点」他  


2016年8月10日水曜日

2016.8.8第6回口頭弁論期日報告

2016.8.8
2016.8.8第6回口頭弁論期日報告

 子ども脱被ばく裁判 弁護団長 井 戸 謙 一


第1 第三次提訴について
1 2016年5月10日、第三次提訴を行いました。子ども人権裁判原告が3名、親子裁判原告が30名(子ども人権裁判の原告3名を含む)です。
2 本日、第三次提訴分についての第1回口頭弁論が開かれ、第一次提訴分・第二次提訴分の事件と併合されました。(今後は、3つの事件が一体として審理されることになります。)

第2 今回の期日について
1 原告側が準備した準備書面
(1) 原告側は、準備書面(14)(15)(16)を提出しました。
(2) 準備書面(14)は、被告国が前回提出した準備書面(2)の一部に対する反論で、国が依拠する低線量被曝に関するワーキンググループ報告書(WG報告書)及びICRP2007年勧告の内容を批判するものです。
準備書面(15)も、被告国準備書面(2)の一部に対する反論で、国には市民に対してスピーディやモニタリングデータの情報を提供する義務がないとの国の主張を批判し、このような市民の生命、健康にかかわる情報を提供するのは法律上の義務であることを主張するものです。
(3) 準備書面(16)は、被告国からなされた質問に対する回答です。被告国は、親子裁判の原告の中に、他の訴訟(生業訴訟、いわき市民訴訟等)でも原告になり、国に対して損害賠償を求めている人がいることから、重複訴訟ではないかと問い質してきました。これに対しては、他の訴訟で求めているのは、国が東京電力に対して規制権限を適正に行使せず、福島原発事故を招いたことに対する損害賠償であり、本件で求めているのは、福島原発事故発生後、国が被ばくから市民を防護する義務を果たさなかったことに対する損害賠償であるから、対象が異なり、重複訴訟には当たらないと主張しました。また、国は、被ばくの不安についての精神的苦痛は、東京電力から受け取った賠償金によって満足していると考えられるから、原告ごとに東電から受け取った賠償金の金額を明らかにするよう求めました。これに対しては、東京電力から受け取ったのは、東京電力が原発事故を起こしたことによる損害の賠償であり、本件で請求しているのは、事故後になされるべき防護対策がなされたなったことによる損害の賠償であって、対象が異なるから、東電から受け取った賠償金の金額を明らかにする必要はない、として、国の求めを拒否しています。

2 本日の裁判所
裁判所は、子ども裁判の進行について被告自治体らの意見を求めました。被告自治体らは、裁判所の判断に従うとの意見だったので、裁判所は、子ども裁判について分離判決をしないことを明言し、子ども裁判の被告自治体らに対し、原告らの主張の中身について(今の環境が子どもにとって健康上のリスクがあるか否かについて)反論をするように求めました。これによって、子ども裁判が門前払い却下されるおそれがなくなりました。

第3 今後の展開
1 子ども裁判の被告である自治体らから、実質的は反論が出てきます。ようやく、現在の福島の被ばく環境と健康上のリスクについて、本格的な議論が始まります。
また、親子裁判では、今後、原告側で、原告の陳述書に基づいて、国や福島県の違法行為によって各原告がどのような損害を被ったか(どのように無用な被ばくをさせてしまったか)について主張をしていくことになります。
2 県民健康調査を縮小する方向が打ち出されています。被ばくを軽視し、その被害を隠す企てが急速に進行している中で、この裁判の持つ意味は大きいと思われます。
子ども裁判について門前払い却下するという裁判所の方針を変えさせることができたのは、全国の方々から多数の署名をお寄せいただいたことの成果だと考えます。これからも、ご支援をよろしくお願いいたします。
以上 

 


2016年5月28日土曜日

2016.5.26第5回口頭弁論期日報告


2016年5月27日
第5回口頭弁論期日報告

弁護団長  井 戸 謙 一

1 第三次提訴
  2016年5月10日、第三次提訴を行いました。子ども人権裁判には、新たに3名の子供たちが、親子裁判には新たに27名の親子が原告に名乗りをあげました。

2 進行協議期日(2016年5月26日午後2時)
  口頭弁論期日に先立ち、進行協議期日が開かれました。席上、裁判官は、第三次提訴があったので、これを第一次提訴・第二次提訴分と併合審理する予定であること、したがって、行政訴訟部分(「子ども人権裁判」のことです。)を国家賠償訴訟部分(「親子裁判」のことです。)から分離して判決をするか否かは、第三次訴訟を併合してから決めることを述べ、「本日の口頭弁論期日では、分離はしない」という方針を明らかにしました。その上で、裁判長は、次のように発言しました。
「行政訴訟部分の原告らの請求は、多岐にわたっており、問題となっている「訴訟要件」も同一ではない(被告市町村は、子ども人権裁判は、『訴状要件』が欠けているから門前払い却下すべきだと主張しています。)。裁判所が、行政訴訟部分を分離して判決した場合、結論がすべての請求について同一になるとは限らない(一部の請求は、訴訟要件を欠き、違法であるから却下しても、一部の請求については訴訟要件を備えており、適法であるという判断になることがあり得るということ)。その場合、原告は、却下された請求については、控訴するだろうから(適法な請求は、福島地裁で審理が続けられるので)、子ども人権裁判が、仙台高裁と福島地裁の双方で同時に審理されることになる。こうなると、原告も被告も負担が大きい。従前、被告市町村は、行政訴訟部分を分離して判決することを裁判所に求めており、裁判所もそのつもりであった。しかし、上記のような事態が生じ得るのだから、被告市町村には、行政訴訟部分の分離・判決を裁判所に求めるのか、再検討してほしい。」
裁判長は、要するに、「行政訴訟部分(子ども人権裁判)を分離・判決しても、すべての請求について訴訟要件がないとして却下するという判断はできないと考えている。そうなると、分離・判決をする意味がないので、被告市町村は、裁判所に対し、分離・判決を求める意見を撤回してほしい。」と、暗に求めたのだと理解できます。
これで、子ども人権裁判について、少なくともすべての請求が却下されるという心配は事実上なくなり、実体の審理(行政が、希望する子どもたちを今よりも安全な地域で教育する義務があるか)に入ることができることがほぼ確実になりました。たくさんの方々のご尽力により、全国から多数の署名と要請ハガキを寄せていただいたこと、原告の人たちが口頭弁論の都度、裁判官に対して直接訴え続けたことが実を結んだものと思います。なお、最終的な決定は、次回になされます。

3 口頭弁論期日(2016年5月26日午後3時)
口頭弁論において、原告側は、準備書面(11)(12)(13)を陳述しました。準備書面(11)は、子ども人権裁判の請求が訴訟要件を備えている旨を主張したものです。準備書面(12)は、東大の児玉龍彦教授に作成していただいた意見書に基づいて、スピーディやモニタリングデータ等の情報を隠ぺいした国の不作為を断罪したものです。児玉教授は、意見書で、特に文科省の無為無策を厳しく追及しておられます。準備書面(13)は、安定ヨウ素剤を服用させなかったことの違法主張の追加であり、1999年にウクライナの内分泌代謝研究所所長のトロンコ氏が発表した論文では、小児甲状腺がんになった子どもたちの甲状腺吸収線量は、100mSv以下が過半数であり、36%の子供たちは50mSv以下、15%の子供たちは10mSv以下であったことが分かっており、これを踏まえてWHOは、安定ヨウ素剤服用の基準を小児甲状腺等価線量10mSvに引き下げたのだから、100mSvのまま放置していた日本の基準は、高すぎて違法である、等と主張したものです。
他方、被告国からは、長期低線量被ばくの健康リスクについて、本格的な主張が出てきました。長期低線量被ばくによる健康被害は、発がん以外にはなく、発がんのリスク増加も100mSvを超えない限り、認められていないとし、ICRPの2007年勧告は正当であって、国は、これに従ったものであって何ら問題はないというのです。そして、国には、モニタリングデータを住民に提供する法的義務はない、20mSv通知は、指導助言にすぎず、これに従うか否かは、福島県の判断に委ねられていた、と断じました。
また、今回も2名の原告が、意見陳述をしました。その静かな怒りは、法廷中の人たちの胸に突き刺さったことと思います。

4 今後の予定
次回期日は、8月8日(月)午後3時からです。次々回期日は、10月12日(水)午後3時、次々々回期日は、12月12日午後3時とさだめられました。期日のペースが2か月に1回と早くなってきました。裁判所の姿勢が積極的になってきたように感じます。
いよいよ、本格的な議論が始まりました。引き続き、ご支援をお願いいたします。

以上

2016年2月29日月曜日

平成28年2月25日(第4回口頭弁論期日)での活動の様子

前半、裁判前の映像です
20160225 UPLAN【事前交流集会】子ども脱被ばく裁判第4回期日  https://www.youtube.com/watch?v=6SBxP6Oq_xw


後半、裁判所前から記者会見、意見交換会までの映像です。
https://www.youtube.com/watch?v=P_Axb8t-i7Q

2016年2月28日日曜日

2016.2.25第4回口頭弁論期日報告

2016.2.27

2016.2.25第4回口頭弁論期日報告

子ども脱被ばく裁判 弁護団長 井 戸 謙 一

第1 今回期日に至る経緯
  1 前回の第3回口頭弁論期日で、金沢裁判長が、親子裁判から子ども人権裁判を分離・終結して門前払い判決をする意思を明確にしました。私たち弁護団は、前回期日の場で分離・終結を阻止することに何とか成功し、今回期日まで、裁判所に分離・終結をさせない対策を検討する時間を確保しました。
 2 今回の期日までに弁護団がとった対策は、次の(1)(2)でした。 
 (1) 「危険とまでは言えない地域」を表した地図を更に詳細化する。
 (2) 現在の教育環境では子どもの健康リスクを否定できないことを理由に、現在の学校施設で教育活動を続けないことを求める請求を追加する。(いままでの請求は、「危険とまでは言えない地域」で教育を受ける権利があることの確認及び教育をすることを求める請求でしたが、「危険とまでは言えない地域」の特定が難しく、裁判所がその点を理由に門前払い判決をすると思われましたので、今までの請求の前提となる「現在の学校施設で教育活動を続けさせない」ことを独立の請求として立てたものです。この請求が認められた場合、ではどこで教育活動をするかは行政が自分の責任で考えろということになります。この請求では、「危険とまでは言えない地域」を原告側で定義づけ、これを特定の必要がありませんから、門前払い判決をする理由がなくなります。) 
 3 更に、弁護団は、原告や支援者たちとの意見交換で受けた示唆を踏まえて、「危険とまでは言えない地域」として、従前の2つの定義(「現在において追加実効線量(外部被ばく)が年0.3mSvを下回る地域」、「事故直後においてセシウム137の土壌汚染が37000ベクレルを下回る地域」)に加えて、3つ目の定義を立てることとしました。これは、原発で出た資材を再利用するための基準であるセシウム134、137合算で1キログラム当たり100ベクレル(クリアランス基準といいます)を参考に、「現在においてセシウム134、137合算で土壌1キログラム当たり100ベクレル(1平方メートルあたり6500ベクレル)を下回る地域」というものです。ただし、最も新しい文科省の航空機モニタリングにおける表示下限が1平方メートルあたり1万ベクレルですので、せめて、このモニタリングによって、「セシウム134、137合算で1平方メートルあたり1万ベクレルを上回らない地域」としました。これについても、専門的技能を持った方に甚大なご協力をいただき、詳細な地図でその地域を特定しました。 
 4 これらの請求を新たにたてたところ、被告らからは、これらの新請求も、不適法だから門前払い却下すべきである旨の主張が出されていました。

第2 今回の期日
 1 今回、金沢裁判長は、この期日において子ども人権裁判を分離・終結しないことを言明しました。そして、原告側に対し、新請求について被告らから出ている「門前払い却下」すべきであるとの主張に対して反論するように求めました。 裁判所は、前回の期日では、当事者の主張を聞くこともなく、裁判所の考えで門前払い却下する意向を示していましたので、今回の対応は、前回とは全く違っていたと評価することができます。被告らの主張に対して原告側が適切に反論すれば、裁判所は、門前払い却下ができなくなる可能性が強いように思われます。
 2 今回も原告お二人が意見陳述をされました。お一人は、関東に自主避難されたお母さんで、自主避難が遅れ、子どもに無用な被ばくをさせたことの無念さと行政に対する怒りを凛として話されました。お一人は、現在も福島で子育てを続けているお母さんで、今の福島で子育てをすることの悩み、苦しみを訴え、条件さえ許せば、普通の環境で子育てをしたいという思いを述べられました。原告代理人や傍聴席は勿論のこと、裁判官や被告側代理人の胸にも強く響いたものと思います。
 3 前回期日以降も、全国で多くの方が署名運動に取り組んでいただきました。寄せられた署名は、6755筆で、累計で2万4214筆になりました。これを裁判所に提出しました。

 第3 次回期日
 次回期日までに、原告側は、被告の「新請求についても門前払い却下すべき」との主張に対する反論をします。被告側は、特に国が、親子裁判について、次回から実質的な反論をする旨言明しました。
 次回には、子ども人権裁判については門前払い却下されるか否かが明確になります。また、親子裁判については、論争がいよいよ本格化します。
 署名運動は少なくとも子ども人権裁判を門前払い却下されないことが明らかになるまで続けます。この間の署名運動によって、全国で多くの人たちがこの裁判に注目しているということを裁判所に示せています。ありがとうございました。引き続き、ご協力をお願いいたします。
以上

2016年2月27日土曜日

2016.2.27

2016.2.25第4回口頭弁論期日報告

子ども脱被ばく裁判 弁護団長 井 戸 謙 一

第1 今回期日に至る経緯
  1 前回の第3回口頭弁論期日で、金沢裁判長が、親子裁判から子ども人権裁判を分離・終結して門前払い判決をする意思を明確にしました。私たち弁護団は、前回期日の場で分離・終結を阻止することに何とか成功し、今回期日まで、裁判所に分離・終結をさせない対策を検討する時間を確保しました。
 2 今回の期日までに弁護団がとった対策は、次の(1)(2)でした。 
 (1) 「危険とまでは言えない地域」を表した地図を更に詳細化する。
 (2) 現在の教育環境では子どもの健康リスクを否定できないことを理由に、現在の学校施設で教育活動を続けないことを求める請求を追加する。(いままでの請求は、「危険とまでは言えない地域」で教育を受ける権利があることの確認及び教育をすることを求める請求でしたが、「危険とまでは言えない地域」の特定が難しく、裁判所がその点を理由に門前払い判決をすると思われましたので、今までの請求の前提となる「現在の学校施設で教育活動を続けさせない」ことを独立の請求として立てたものです。この請求が認められた場合、ではどこで教育活動をするかは行政が自分の責任で考えろということになります。この請求では、「危険とまでは言えない地域」を原告側で定義づけ、これを特定の必要がありませんから、門前払い判決をする理由がなくなります。) 
 3 更に、弁護団は、原告や支援者たちとの意見交換で受けた示唆を踏まえて、「危険とまでは言えない地域」として、従前の2つの定義(「現在において追加実効線量(外部被ばく)が年0.3mSvを下回る地域」、「事故直後においてセシウム137の土壌汚染が37000ベクレルを下回る地域」)に加えて、3つ目の定義を立てることとしました。これは、原発で出た資材を再利用するための基準であるセシウム134、137合算で1キログラム当たり100ベクレル(クリアランス基準といいます)を参考に、「現在においてセシウム134、137合算で土壌1キログラム当たり100ベクレル(1平方メートルあたり6500ベクレル)を下回る地域」というものです。ただし、最も新しい文科省の航空機モニタリングにおける表示下限が1平方メートルあたり1万ベクレルですので、せめて、このモニタリングによって、「セシウム134、137合算で1平方メートルあたり1万ベクレルを上回らない地域」としました。これについても、専門的技能を持った方に甚大なご協力をいただき、詳細な地図でその地域を特定しました。 
 4 これらの請求を新たにたてたところ、被告らからは、これらの新請求も、不適法だから門前払い却下すべきである旨の主張が出されていました。

第2 今回の期日
 1 今回、金沢裁判長は、この期日において子ども人権裁判を分離・終結しないことを言明しました。そして、原告側に対し、新請求について被告らから出ている「門前払い却下」すべきであるとの主張に対して反論するように求めました。 裁判所は、前回の期日では、当事者の主張を聞くこともなく、裁判所の考えで門前払い却下する意向を示していましたので、今回の対応は、前回とは全く違っていたと評価することができます。被告らの主張に対して原告側が適切に反論すれば、裁判所は、門前払い却下ができなくなる可能性が強いように思われます。
 2 今回も原告お二人が意見陳述をされました。お一人は、関東に自主避難されたお母さんで、自主避難が遅れ、子どもに無用な被ばくをさせたことの無念さと行政に対する怒りを凛として話されました。お一人は、現在も福島で子育てを続けているお母さんで、今の福島で子育てをすることの悩み、苦しみを訴え、条件さえ許せば、普通の環境で子育てをしたいという思いを述べられました。原告代理人や傍聴席は勿論のこと、裁判官や被告側代理人の胸にも強く響いたものと思います。
 3 前回期日以降も、全国で多くの方が署名運動に取り組んでいただきました。寄せられた署名は、6755筆で、累計で2万4214筆になりました。これを裁判所に提出しました。

 第3 次回期日
 次回期日までに、原告側は、被告の「新請求についても門前払い却下すべき」との主張に対する反論をします。被告側は、特に国が、親子裁判について、次回から実質的な反論をする旨言明しました。
 次回には、子ども人権裁判については門前払い却下されるか否かが明確になります。また、親子裁判については、論争がいよいよ本格化します。
 署名運動は少なくとも子ども人権裁判を門前払い却下されないことが明らかになるまで続けます。この間の署名運動によって、全国で多くの人たちがこの裁判に注目しているということを裁判所に示せています。ありがとうございました。引き続き、ご協力をお願いいたします。
以上

2015年12月7日月曜日

第3回口頭弁論期日報告

第3回口頭弁論期日報告

弁護団長   井 戸 謙 一

 12月1日の第3回口頭弁論期日の報告をします。この日までに寄せられた署名9705筆(累計で1万7459筆)を裁判所に提出した後、期日が始まりました。
 
 原告側は、事前に、①訴えの追加的変更申立書【子ども人権裁判について、従前の確認請求(危険とはいえない地域で教育を受ける権利があることの確認を求める請求)に給付請求(危険とはいえない地域で教育を実施することを求める請求)を付け加えるとともに、「危険とはいえない地域」を福島第一原発事故直後の土壌汚染濃度から特定したもの】、②準備書面(6)(低線量被ばくの危険を述べたもの)、③準備書面(7)(小児甲状腺ガンの増加問題を述べたもの)を提出しました。また、子どもには安全な環境で教育を受ける権利があることについて、同志社大学の横田光平教授の意見書を提出しました。
 
 他方、被告国、被告県は、親子裁判について準備書面を提出しました。被告国は、原告側の主張に難癖をつけて、国の積極的主張をするのをまた回避しました。被告県は、基本的な主張をしました。それは、「県には、放射線量の情報を県民に提供する義務はない」、「国が安定ヨウ素剤を服用させる必要はないと判断している中で、県が県民に独自に服用を指示する理由はなかった」、「学校を再開したのは市町村教育委員会が決めたことで、県は関知しない」「山下俊一アドバイザーは放射能の危険性を科学的に説明したのであって、言葉尻をとらえて非難するのは相当でない」等と開き直るものでした。

 裁判所は、子ども人権裁判について、審理を終えて終結しようとしました。裁判所が子ども人権裁判を門前払いしようとしていることがはっきりしましたので、原告弁護団は、裁判所に対し、追加した給付請求について被告の意見を文書で求め、原告側に反論の機会を与えるべきこと、裁判所が、子ども人権裁判が訴訟要件を欠いていると考えているのであれば、それを指摘して、原告側に反論の機会を与えるべきこと等を強く迫りました。その結果、裁判所は、終結を断念し、原告側に次回までに反論の機会を与えることになりました。

 確かにこの裁判は前例がありません。前例のない裁判が起こったのは、前例のない人権侵害が起こったからです。それを裁く司法には、前例のない判断が求められます。弁護団は、そのことを次回期日までに強く主張して、裁判所の翻意を求めます。市民の皆さまも、葉書や署名の形で、裁判所に対し、是非意見をお寄せいただきたいと思います。
以上

2015年12月5日土曜日

12月1日(第3回口頭弁論期日)での活動の様子

12月1日、子ども脱被ばく裁判の第3回口頭弁論が行われました。

 提出する9705筆の署名を持って支援者の激励を受ける原告と
弁護団の皆さん。

裁判所前で打ち合わせする弁護団



20151201 UPLAN【交流集会・進捗確認・出発式】子ども脱被ばく裁判第3回口頭弁論

20151201 UPLAN【裁判前リレートーク・記者会見・意見交換会】子ども脱被ばく裁判第3回口頭弁論